僕は君を連れてゆく
第45章 ただ、ただ、愛しい
大きな通りに出たら、雅紀は握っていた手を離した。
離された手のひらを見つめながら雅紀のあとをついていく。
下をむいて歩いていたから、こちらに向かって歩く人に気がつかず肩がぶつかった。
「あ、すいません」
「チッ」
ギロリと睨まれ舌打ちをされた。
途端に恐くなった。
今まで何とも思わなかったのに急に行き交う人たちが恐くなった。
足が動かない。
雅紀は立ち止まる俺に気がつかず、どんどん、歩みを進めてしまう。
雅紀が、どんどん、離れていく。
雅紀、
雅紀、
「雅紀っ!!!」
振り返る雅紀の顔は歪んだ。
「かずっ!!!」
俺に駆け寄って俺を抱き締める。
大きな胸で優しく俺を抱き締める。
その大きな背中に俺は腕を回そうと
した。
「かず、ちゃんと、ついてこいよ」
「え…」
「ちゃんと、ついてこないと何されるかわかんねぇぞ?」
大きくて優しい胸の中から出ると、今まで見たことない顔した雅紀がいて。
「……な、なんだよ…」
「Ωで、こんな細っこいかずがチンタラ歩いてたらすぐ、襲われちゃうよ?」
それは、俺が今まで雅紀に投げてきた言葉たち。
「きちんと、抑制剤飲めよ?お前なんて速攻でヤられちゃうんだから」
こんな風に、冷たい目で俺も雅紀を見てたのだろうか。
「な、なんだよ…その言い方…襲われるなんて、そんなこと…」
「わかんねぇって、かずも俺に言ってたろ?毎日、母ちゃんでもねぇのに…俺の彼氏か?ってくらいさ…正直、かなり、ウザかったんだよね」
目の前にいる、この男は雅紀なのか?
俺の肩を抱いて低い声で。
瞳の奥に何か、本当の雅紀がいる気がしたけれど、
その、瞳には雅紀に困惑する俺の顔が写るだけ。
「ウザいって…なんで、てめぇにそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ」
抱かれた肩を反対にグッと押す。
よろけた雅紀は、俺を睨み付けた。
「Ωのくせに…」
そう言った。