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僕は君を連れてゆく

第45章 ただ、ただ、愛しい

俺の家に父さんのものはほとんどない。

あるのは、一度だけ一緒に食卓を囲んだときに使った箸とお茶碗だけ。

俺の父さんは母さん以外にも、番がいる人だった。

小学生の頃から、いや、もっと前から疑問だった。

なんで、父さんがいないのか。

そして、その、理由を知ったのが中学一年生のときだ。

Ωだったうちの母さんは父さんときちんと恋をして
番関係を結んだわけじゃない。

母さんも、昔はかなりモテたらしい。

それは父さんも同じで。

でも、母さんは一途に父さんを想っていたんだって。

父さんはあちこちに手をだしては欲求を満たすために身体の関係を持つという最低なやつで、母さんもその中の一人で。

母さんはよく言ってた。

『俺が、噛んでって言って噛んでもらったんだ』って。

そうして、首の後ろにある噛み痕に手を重ねてた。


俺が産まれて、αだと分かったときはとても喜んだ。

父さんが母さんとどうして番関係を持ったのか。

きちんと恋をして、胸が高鳴って。

母さんを欲しい、と。

心から、心から強くおもい母さんを…




「母さん…具合どう?」

「和也…ごめんな…」

ベッドで横たわる母さんはいつもよりずっと白い顔をしていた。

「俺こそ…なかなか来れなくて…ごめん。ほら、学校忙しいんだよ、もうすぐ学祭だし…」

俺の話を聞いてるのか、聞いてないのか…
心配かけたくなくて、嘘をついた。

病室にあるカーテンのひかれてない窓を見つめている。

「ちゃんと、飲んでる?」

「え?」

「薬…」

「あぁ…あれか…」

「ちゃんと、飲まないと。大変なことになるぞ」

「俺は…俺は…」

「和也…ごめんな…」

なんで、母さんが泣くんだよ…

泣きたいのは俺だ。



「母さん…俺…みんなが恐い…」





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