僕は君を連れてゆく
第45章 ただ、ただ、愛しい
気がつくと授業は始まっていた。
特に注意されることもなく授業はたんたんと、進んでいる。
イヤホンを外して教科書を出した。
外に視線を移すとどこかのクラスが体育の授業でサッカーをしている。
そこには岡田先生が一緒に混じっていて。
軽快なドリブルで生徒のディフェンスを潜り抜けてシュートを放った。
放ったシュートは惜しくもゴールキーパーの正面に飛んでキーパーに止められてしまった。
今までなんとも思わず見てきた光景。
それが、自分の置かれてる立場が変わるとこうも違うのか。
周りがどんな風に俺を見てるのか、俺はどんな風に見られているのか、とても気になる。
こんな風に得たいの知れない何かにドキドキしながらこれから俺は生きていかなきゃならないのだろうか。
ふと、視線を感じた。
俺とは反対側の廊下側の一番後ろの席。
雅紀が俺を見てる。
その顔は不安なのか悲しいのか、眉が下がってる。
目が合ったら、ニコっと笑った。
カァーと頬が熱くなる。
口をパクパクしてる、何かを俺に伝えようとしてる。
なんだ?
俺と雅紀の絡んだ視線を遮るように教科書が。
「あ、」
「あ、じゃない!前を向け!」
クラスの奴らがケタケタと笑った。
雅紀は口を押さえて笑ってる。
俺は雅紀を睨む。
「はーい」
雅紀は顔の前で手を合わせて何度もペコペコ頭を下げる。
なんだってんだ。
全く…
熱くなった頬と、ちょっと違う。
胸がホカホカと温かくなる。
もう一度雅紀に視線をやった。
雅紀は、もうすでに前を向いていた。
真剣に先生の話を聞いてる雅紀の横顔。
それを見つめていたらやっぱり俺の頬は熱くなってくる。
それを、ごまかすように教科書で雅紀をシャットアウトした。