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僕は君を連れてゆく

第45章 ただ、ただ、愛しい

「どうして、飲まないの?」

俺は回転椅子に座り、膝の上でギュッと拳を握った。

俺はあれからずっと、薬を飲んでない。

「副作用すごいって聞くし…」

「飲んでないのに副作用なんて、言っちゃ…」

「分かってるけど…」

ふぅーっと大きなため息を吐いた先生。

「ちょっと、歩こうか」

先生は真っ白な白衣を風になびかせて歩き出した。

この病院は不妊治療や婦人科系の病気も診てくれる。
もちろん、出産も取り扱っている。

あちこちから子供の泣き声、笑い声が聞こえてくる。

先生が中庭のベンチに腰かけた。

その隣に座ろうとしたけど、一人分の間をあけて座った。

そんな俺を見て先生は微笑んだ。

「二宮くんは将来、結婚したいなとか考えたことある?」

「結婚?」

「今の世の中は一人で生きていくには少し窮屈なんだ。パートナーがいる人のほうが断然に生活しやすい」

そうなんだ、この国は、子供を持つことで格段に住みやすくなる。

すると、トントントンとサッカーボールが俺の足元に転がってきた。

両手でそれを拾いあげると、ヨタヨタと歩く少年が手を差し出しながら俺のそばへ近づいてくる。

「はい、どうぞ」

「あ~と(アリガトウ)」
ペコリと頭を下げて頭より大きいボールを手にしてヨタヨタと歩く。

「あっ!!!」

その少年は転んだ。

すると、遠くから見守っていたんだろう、男性が走ってきてその少年を抱き上げた。

大きな声で泣く少年をあやしながら、俺に頭を下げる。
隣にもう一人走ってきた男性が転がったボールを持って、少年の頭を撫でている。


俺と雅紀も、あーなるのかな…


なんてことを考えているんだ。

雅紀とだなんて…

俺を両手で口を押さえた。

「たくさん、考えるんだ。将来、どんな母親になりたいか」

俺は先生を見た。

先生は大きく頷いた。

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