僕は君を連れてゆく
第45章 ただ、ただ、愛しい
もう一人は斗真。
二人が保健室に入ってきた。
「ってか、ニノ、Ωだったんだろ?」
「あ~、らしいね」
「ニノならなぁ~」
「ニノならなんだよ?」
「良くね?ヒート来てなくてもヤれそうじゃね?」
「みんな、言ってたもんな」
「あんなガタイでαっておかしいなって思ってたんだよ。やっぱりΩだったろ!」
雅紀がすっと立ち上がり、俺の頭の下に腕を差し込んでき包んだ。
何も聞くな、そう言われたように気がして。
雅紀の心臓のトクトクという鼓動だけを聞くように神経を集中させた。
雅紀が優しく俺を包む。
「でも、あいつには雅紀がいるからな~」
「雅紀がαってのもビビったわ~」
バタバタも騒がしく保健室から出ていった。
訪れた、静寂。
αの人間はその備わった嗅覚でΩの人間を嗅ぎ分ける事が出来ると言われているけど、まさか、俺のことも…
鼻の奥がツンとして、涙が込み上げてくる。
そして、目から溢れる涙は雅紀のワイシャツを濡らした。
「かず…保健室に行こうなんて俺が言ったから…」
俺は首を横に振った。
「何も聞こえなかったよ、ありがと」
雅紀は俺の涙を人差し指ですくいあげた。
やっぱり、俺はこれから生きていくなかでαだったらよかったのに、と思う日がくるんだろう。
だけど、先生に言われた『結婚』について、
『母』になることについて、もう少し考えなくてはならないと思った。
そして、雅紀の母親がよく俺に言った言葉
「かずくんが雅紀の番だったらいいのに」
この言葉を雅紀にそっくりそのまま返す。
「ねぇ、雅紀。」
「なに?」
「雅紀が俺の番ならいいのに…」
雅紀が目を丸くて俺の体から離れた。
俺を見下ろす雅紀の顔は困ったような、悲しいような顔で。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
だけど、認めるしかない。
俺は雅紀が好き。
「変なこと言ってごめん、少し、寝る」
布団を被った。
雅紀は保健室から出ていった。