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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

潤の会社は俺らの住む町の駅から二つ目の駅で地下鉄に乗り換えて三つ目の駅だ。

乗り換えがスムーズに行けば1時間もあれば
届けることが出来る。

でも、俺が朝食をとって、支度をしてから
出たら電車が止まっていた。

潤に電車が止まっていることをメールする。

出勤ラッシュは過ぎたものの、電車を利用する客はそれなりにいて。

俺が自動販売機のそばに寄りかかって待っていたら前でヒソヒソとしゃべるめかしこんだ女の二人組の声が聞こえた。

「倒れたんだって」

「発情期、きちゃったみたいよ」

「周期とかきちんとしてんのかね?」

「さぁ~。うちの店の子も発情期で仕事休まれちゃって」

「えっー!大変だったでしょ?」

「そう、薬が合わないらしいんだけどさ3ヶ月に一度だかなんだか知んないけど本当に参るわ」

潤にΩの人間が電車内で倒れたことをメールする。

同じΩが、ここにいるって考えなれないのかなぁ。

俺はΩだから在宅で仕事をしている。

それが一番、自分を守れるって俺は思ってるから。

俺は携帯のアプリを開いて次の発情期を確認する。

残ってる抑制剤を帰ったら確認しなくちゃ…

やっと、電車が動きだしたようで止まってる電車にたくさんの人間が吸い込まれていく。

同じ人間なのに、なんで俺らだけが…

こうやって、たまに外に出ると自分の存在が
やっぱり、雑に扱われていると思い知る。

次の電車にしようと、決めてベンチに座った。

扉が閉まります、とアナウンスがあって
閉まりかけたドアに体を押し込めようとする
人間がいた。

駆け込み乗車はおやめください、とまたアナウンスがあって。

その人はそのまま、乗り込むことは出来ずに、
走り出した電車を見つめていた。



だけど、その、後ろ姿でわかった。

その人間が誰なのか。

頭の中で、朝の占いがこだまする。


そして、振り返った人。

やっぱり。

智だった。

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