僕は君を連れてゆく
第50章 こんなにも
「翔く、ん…」
口を開いて、俺の名前を呼んだ。
「ビックリした!いつもこの時間なの?俺はさいつもは一本前なんだけど、起きれなくてさ…そうしたら、まさか電車止まっててラッキーって思ったんだけど乗れなかったよ」
眉毛を下げて話をする智の顔は少し、
大人になってた。
だけど、笑った顔、俺を呼ぶ声は
あの頃と同じ。
胸がキュゥとしめつけられるような
そんな感覚がする。
胸元を手繰り寄せて握る、ふぅと息を吐いた。
「調子悪いの?」
俺に駆け寄り肩に手を置いた。
触れた手があたたかい。
俺は智の顔が見れない。
だって、顔なんて見たら…
置いた手にグッと力が入り俺の体を自分に向けた。
「翔くん?大丈夫?」
「へ、いき」
「そう?でも、顔色良くないよ?」
立ち上がりベンチに座ろうとしたらちょうど
電車がホームに入ってきた。
「あ、きたきた、」
ドアが開いて智が電車の中へ入っていく。
俺も続いて乗り込んで手すりにつかまった。
間もなく発車いたします、とアナウンスがあってドアが閉まりかけた瞬間、俺は飛び降りた。
「あっ!翔くん!」
智がドアにへばりついて俺を呼んでる。
ホームから離れていく電車を見てた。
「お待たせ」
「おせぇ…」
「仕方ないじゃん、電車止まってたんだから」
「分かってるって!サンキュ!」
本当はもう一本前のに乗れたからもう少しだけ
早く来れたのは言わなかった。
「じゃぁ」
「翔、なんかあった?」
「なんもないよ」
俺がそう言うと潤は腕時計に目をやり、
ありがとな、と小走りにエレベーターに向かった。
エレベーターに乗った潤を見届けて会社を出た。
別になにもない。
朝の占いだって信じてるわけじゃない。
そもそも、アイツの、智の、星座の占いなんだから。