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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

「珍しいな、熱出すなんて」

潤が俺の額に手をのせる。

「冷たくて気持ちいい」

潤が俺のおでこに冷却シートを貼った。

潤の鎖骨から見える赤いアザに目を奪われる。

「会ってたの?」

「え?あぁ、うん」

はにかんだ潤の顔を見るとぐにゃぐにゃの俺の心を少し整えてくれる。

「翔、ゆっくり休めよ、な?」

目を閉じる。

部屋のドアが閉まって一人きりになった。

まぶたの裏にまで浮かんでくるのは
やっぱり智で。

あの頃と何も変わらなかった。

ただ、俺をまっすぐに見る。

俺たちがなんでこんなに惹かれ合ったのか。

運命の番(ツガイ)というのが俺たちΩにはいる。

だけど、そんなものは俺たちには見つからなくて。

Ω同士だけど、心を奪われて仕方なかった。

智の見る先を俺も見てたし、
俺の見てきたものを智は見てきてくれた。

二人でたくさんのものを見てきた。

どんどん、視界がぼやけてきて涙が溢れてくる。

部屋のドアが開く音がして慌てて涙を袖で拭って枕に顔をうずめた。

「翔、寝てるの?」

潤の小さな声がする。

わかってる。

そろそろ、潤を手放さないといけない。

潤の幸せを俺が奪ってるんだ。

「翔…、大丈夫だよ。俺はお前が好きなんだから」

やっと、止まったと思ったのに
潤の声があまりに優しくて
潤の言葉があまりに優しくて
また、涙が溢れてきた。


「おやすみ」

また、一人きりになった部屋。

俺だって、お前が好きだよ。


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