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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

潤が用意してくれてコーヒーを飲んだ。

「うまいね」

「こだわってるみたい、俺にはよくわかんない」

俺を見てどんどん頬が緩んでいく智。

「なに?」

「いや、別に」

「言えよ、なんだよ?」

「いやさ、前にあったなぁって。俺が部屋のソファーカバー変えたの全然、気がつかなくてさ」

「あぁ、あったね…」

「言ったら、前のはどんなのだったけ?って聞いてきたんだよ」

大笑いしてる智。

確かに、俺はあまり執着するものやことがないから。

だけど、それを個性としてみてくれる人もいれば、無関心な人とみられることもあって。

後者の方がずっと多くて。

「でもさ、俺のことに気がつくんだよね」

「え?」

「髪切った、とかはもちろんだけど。家族と喧嘩したとか、見えないとこにもさ…言わなくても気がついてくれてた」

「……」

「それが、すごく嬉しくて、俺は翔くんの中で特別なんだなぁって。愛されてるなぁって」

「智…」

「俺、なんで翔くんが別れるって決めたのかわかんなかった、ただ悲しくてさ」

智は一口、コーヒーを飲んだ。

「俺はね、絵を描くのを仕事にしたくなかった」

「え?」

「せっかく翔くんが俺を、俺の家を守ってくれるために、…でもね、俺が描きたいのは翔くんがいるからなんだ」

「俺のうちのようにさ、簡単にはいかないのは分かってる…でも、翔くんが好きなんだ」

潤の幸せな顔が頭に浮かんだ。

だって、智も同じ顔してるんだ。

それは、つまり。

俺が智にあんな顔をさせてる、ということで。

胸が苦しくなった。

「どうしたの?」

俺のそばにきて肩に手を置いた。

ホロホロと落ちてくる涙。

シャツの胸元をギュツと掴む俺。

幸せになると、嬉しくなると胸って苦しくなるんだ。

「智…ありがとう」

ネックレス、今度はお揃いにしよう。

あの、小説のタイトル。

もう一度、一緒に考えてくれる?

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