僕は君を連れてゆく
第50章 こんなにも
「「「翔、お誕生日おめでとうっ!!!」」」
グラスが4つ重なり、綺麗な音が響いた。
翔ははにかみ、大野さんの隣に座っている。
「いつもの店じゃなかったの?」
いつも、俺、亮、翔の三人で行くイタリアンの店にしようと思っていたけど、大野さんという人が現れたから彼に店の手配をお願いした。
彼が選んだのは、彼が店内の装飾やメニューをプロデュースした和食のお店。
彼のおじいさんが描いた絵がそっと、飾られている。
「ここが一番最初に俺が手伝ったお店なんだ」
「いい雰囲気です、雰囲気に酔っちゃいそうです」
隣で日本酒を口にしてる亮も普段より口数が多い。
それは、このお店の雰囲気、大野さんの雰囲気、
何より翔と大野さんの二人の空気が優しくて、甘くて。
何か話していないと、二人の空気にのまれてしまいそうなんだ。
「でもさ、なんで?店の名前…」
「いいだろう?」
店内の入り口に【翔】と書いてあった。
「“翔”、なんて恥ずかしいじゃん…」
「あれは、“翔”、と書いて“愛”と読む!」
その言葉に俺たちは大笑いした。
食べて、呑んで。
穏やかな時間を過ごせるなんて。
幸せだ、すごく。
「明後日だね」
「うん…」
亮は明後日、関西へ戻る。
「寂しくなるね」
「それで、二人にお願いがあって…」
何も聞かされてない俺は三人を見回す。
それは翔と大野さんも同じようで。
亮が鞄から小さな箱を取り出した。
「えっ…」
「わぁぁぁ」
「潤くん、俺が貴方を幸せにする」
左の薬指にはまった。
「「おめでとうっ!!!!」」
翔と大野さんが俺らに祝福の言葉をくれる。
薬指に光るその幸せの証。
「ありがとう、亮」
泣かないって思ってたのに。
鼻の奥がツンとしてきて、目の前が霞んでくる。
「はい」
翔が俺にティッシュ渡してくれた。
ブッーーーー
「汚っ」
鼻を噛んでやった。
だって、恥ずかしいじゃん。