僕は君を連れてゆく
第53章 ミモザイエロー
「ちょっと、飲みすぎちゃったなぁ~」
翔ちゃんはやや足元が覚束なくて危なっかしい。
「大丈夫?」
タクシーを止めてあげて乗せてあげた。
「二人は?帰れる?」
「私、ここから歩いて帰れるので大丈夫です」
と、秋田さん。
宮崎さんに向けて、ウィンクして行った。
「宮崎さんは?電車?」
「あ、はい…あの、もう一軒行きませんか?」
「ごめん、明日も早いんだよ、」
「そうですよね、ごめんなさい、電車です!私も!
」
並んで駅まで歩く。
「櫻井さんと、同期なんですか?」
「そう。あいつは出世コースだけどね」
「そんなこと…」
女の子と何を話していいのかさっぱり、わからない。
電話が鳴った。
「あ、私だ。もしもし?」
こういうとき、どうするのが正解なんだろう。
待ってた方がいいよね…
「え?飲みに行くくらいいいじゃん…今、帰ってるところだよ、電車乗るから切るよ、じゃあね」
喧嘩かな?
「すいません…はぁ、なんか…」
「どしたの?」
乗りかかった船ってこういうことなんだろうか。
駅のロータリーのベンチに腰かけた。
自販機でコーヒーを買って一つ渡した。
「ありがとうございます。相葉さんの彼女さんって束縛とかないですか?」
「束縛?ないない」
「そっか…なんか、彼、って、私の彼氏のことですけど…いまだに帰りは何時なんだ?どこに行くんだ?誰と行くんだ?って聞いてくるんです。もう四年です、付き合いはじめて。あまりに聞いてくるから去年から同棲始めたんです。心配も減るかなぁって…でも、全然、変わらなくて…私って、彼からちっとも、信用されてないんだなぁって…悲しくなってきちゃう」
缶コーヒーを握る細い指に光る指輪。
それは、夜空の中でもキラキラと輝いている。
でも、彼女の顔はとても辛そうだった。