
僕は君を連れてゆく
第53章 ミモザイエロー
そんなこんなで、お昼のお弁当は潤くんの謎の液体のせいであまり食が進まなかった。
そうなるとやっぱり、15時ころになるとお腹が空いてきて。
午後の仕事はちっともはかどらなかった。
今日はもう、帰ろう。
雅紀の帰りは何時になるだろう。
特に連絡も入れずに帰路につく。
今日の夕飯の献立を考えながら。
いつも渡る横断歩道。
横断歩道を渡ろうとした、そのとき。
赤信号で止まったタクシー。
いつもは誰が乗ってる、とかそんなの気にならないのに。
たまたま、そのタクシーのナンバーが0616で
俺の誕生日と近いなぁ、なんて思って。
たまたま、車内に視線を移したら後部座席に座る
男女。
雑誌を二人で仲良く見てる男女。
仲の良い男女のカップルに見えた…
「まさき?」
その男の方はまぎれもなく、俺の大切な人に見える。
少し、明るい髪の色。
あまるい頭の形。
絶対にそう。
俺の…恋人…
横断歩道を渡れず佇む俺。
俺を追い越して横断歩道を歩いてく人々。
不思議そうに俺を振り返る奴。
誰かが俺にぶつかった。
「あっ、すいません」
こんなに心が乱されてるのに、なんともないように
言葉が出てきて。
その場から逃げるように走って横断歩道を渡った。
渡りきったら信号が変わり、タクシーはどんどん離れていく。
雅紀は俺に気がつかなかった。
当たり前だ。
俺だってたまたま気がついたんだ。
でも、
気がつきたくなかった。
何も気がつかず、雅紀の帰りを待っていたかった。
「おかえり」って言いたかった。
でも、
気がついてしまった。
家に帰りたくない、雅紀の帰りなんて待っていたくない。
「ただいま」って言われたら…
「おかえり」と言える?
何度、信号が変わるのを見ていたんだろう。
ふと、気がついた。
帰ってくるよね?
あのまま、あの子と…
そんなの、嫌だ!!!
