
僕は君を連れてゆく
第53章 ミモザイエロー
「どうぞ」
コーヒーの入ったカップがデスクに置かれた。
ふんわり薫る香りに詰まっていた頭の中がほぐれたような気がして。
時計に目をやると日付が変わっていることに気がついた。
「あっ、ごめん。もう、帰って!って終電ない?」
女子社員をこんな時間まで残しておくなんて
あとから何を言われるか。
終電がないかもしれないと思い、タクシー代を出そうとポケットに手を突っ込んだ。
「いえ、大丈夫です。迎えに来てくれるんで」
「あっ、そうなの?」
「相葉さんもすぐに帰ってくださいね、明日もありますから」
「そうだね、帰るか」
デスクを片付けていたらコーヒーのカップが引っ掛かり倒れた。
「うわっ、やべっ」
「シャツに…」
サッと宮崎さんがカップをおこしてくれて資料にまで被害が及ぶことはなかった。
「ここ…」
シャツの袖にコーヒーの染みができてる。
「クリーニング出さなきゃ」
ハンカチがそこに当てられた。
「意味ないかもしれないけど…」
「……」
「今日、すごく勉強になりました。櫻井さんには申し訳ないですけど、相葉さんと一緒で私、嬉しかったです」
「…翔ちゃんに失礼だよ…」
「…一度、相葉さんの同居人に会ってみたいです…」
「え?」
「じゃぁ、お先します」
パタパタと鞄を持ちフロアから出ていった。
「同居人って…」
ハンカチを握ったまま、宮崎さんがなんでそんなことを言ったのか考えてた。
彼氏が迎えにくると言ってるに、俺と仕事が出来て嬉しいと言う。
だけど、同居人に会いたい、とか言うし。
「よく、わかんねぇ~。あっ、ハンカチ…」
コーヒーの染みが移ったハンカチ。
「洗って返すか…」
それも鞄にしまって会社を後にした。
