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僕は君を連れてゆく

第53章 ミモザイエロー

Kazunari


スマホのアラームが鳴って目が覚めた。

その瞬間に背中に温もりを感じた。

帰ってきた。

体の向きを変えて雅紀と向き合う。

アラームにも微動だにしないってことは帰り何時だったんだろう。

俺も頑張って起きてたけど寝てしまった。

帰ってきた。
それだけで十分。

眠る雅紀のおでこにキスをした。

「遅いよ」

仕事へ行く準備をしながら天気予報やニュースに耳を傾ける。

そろそろ、起こさないと。

寝室に戻ると脱ぎっぱなしのスーツがあって、それらをハンガーにかけた。

皺になっちゃうぞ。

ワイシャツはどうするかと手にしたら、知った匂いがする。

「???」

袖口を見たらコーヒーの染みがあった。

きっと、バタバタして溢したんだ。

どうしよう?落ちないよね?って俺に相談してくるのかな。

「起こさなきゃ」

雅紀を揺すって起こす。

目を開けた雅紀は俺の腰に腕を回した。

体は俺より大きいけど、こいつだって甘えん坊なんだ。

頬にキスをされた。
嬉しかったけど、昨日の夜ずっと一人で待ってたのにって思ってたらちょっとだけ仕掛けてやりたくなって、雅紀の唇を奪った。

漏れた声に体がキュンとなった。

雅紀が顔を洗ってる時に俺もジャケットを取りに寝室に戻った。

シミのついたワイシャツをどうするか聞いてみるか、なんて思って。

雅紀の口の開いた鞄。

その中に見慣れない色が。

そっと手を差し込んでそれに触れる。

「……」

そのハンカチにも俺の知ってる匂いと染みが。

「………」

俺はそのままハンカチを戻した。

借りたのかな。

あの子に。

やっぱり、二人でいたんだ。

「…コーヒーの染みは落ちにくいぞ…」

歯磨きする雅紀にコーヒーの染みの落とし方を教えた。

これで落ちるかわからないけど。

雅紀の声はいつも何ら変わらない。

それが、嬉しくもある。

それなのに、自分だけがこんな気持ちになることが悔しくて。

あの子のハンカチ。

どんな気持ちで持って帰ってきたの?






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