
僕は君を連れてゆく
第53章 ミモザイエロー
「どうすんだよ」
「なにがぁ?」
お弁当がない日は翔ちゃんと決まってくる立ち食い蕎麦屋さん。
食券を買って、無愛想な親父さんに手渡す。
セルフのお茶をすすりながら蕎麦が出来上がるのを待つ。
「宮崎さんだよ」
「あぁ…」
「なんだよ、その答え…可愛いじゃん?」
「まぁね…ってあの子、彼氏いるんだよ?」
「いるけど、明らかにお前の事好きじゃん」
「俺だって!」
「彼女いるって分かっててのアプローチだぞ?」
「だから?」
そばが届いて七味を振る。
「飯くらい行ってやれよ」
「行かないよ」
「なんで?」
「なんでって…じゃぁ、翔ちゃんはどうなの?自分の恋人が自分に気がある人とご飯してるって知ったら嫌でしょ?」
「俺の事はいいんだよ!」
「俺にはそんなこと出来ないよ」
「嘘つくの下手そうだもんな」
「そんなことないしっ!」
「うまく嘘ついて欲しい時だってあると思うよ。あの、お礼のプリンだってさ、お前の恋人がもし知ったらなんでわざわざ、プリンなんて買うの?って思うじゃん!」
「いや、だからあれはお礼だから…」
「向こうはそれだけ、って思えないだろ、お前に気があるんだから。特別扱いしてもらえてるように感じるよ」
「俺、間違えたのかな…」
「優しいのが雅紀の魅力だけどさ、その優しさを誰これ構わず振りかざすと、時には剣にもなるってことだよ」
「つるぎ…」
「誰かを傷つけるってこと」
「……」
「なんでもない人を傷つけるならまだしも…大切な人を傷つけることだってあるよ」
「……」
「雨、降りそう、早く食っちゃおう!」
二人で蕎麦をすすり、午後の仕事をした。
仕事をしながら、和のことを考えていた。
もしかしたら、今までもこういうことで和を悩ませていたのかなって。
それを一人で抱えて、なんとかやり過ごしてきたのかなって。
それに今の今まで気づかなかったなんて、
俺、恋人として最低じゃない?
