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僕は君を連れてゆく

第53章 ミモザイエロー

「うわ~、結構降ってるな」

早く帰って和の顔を見たくて、定時で仕事を終えた。
エレベーターを降りて会社から出ようとしたけど、雨足の強さに一歩が踏み出せなかった。

タクシーでも捕まえちゃおうか。
このまま走ってくか。

「相葉さんっ!!!」

会社から俺を追ってきたのは宮崎さんだった。

「どうしたの?」

「傘…」

「天気予報、これからはきちんと見るようにしなくちゃ」

「駅まで一緒に行きませんか?」

翔ちゃんに昼間、言われたことを思い出して、
きちんと断りを入れようと思い、その傘に入った。

「濡れちゃうよ」

「大丈夫です」

少し歩いたら俺の右肩は雨でびしょびしょになっていて、ふと足元を見たら宮崎さんの靴も濡れている。

昼間は営業していない、飲み屋の前で立ち止まる。

「雨宿りしようか」

屋根がつきだしているから傘を閉じても体が濡れる心配はない。

「宮崎さん…俺の恋人は男なんだ」

「えっ!?」

「もう学生の頃から一緒にいる。好きだって気がついたのは俺のが後だったけど…あの頃と今も気持ちは何にも変わってないんだよ。むしろ、今の方がずっと、大切にしたいって、そばにいて欲しいって思ってる」

「男…」

「宮崎さんの気持ちは嬉しいけど、答えることは出来ない」

雨は止むどころか、強くなっていく。

「……と……すよ」

「え?」

雨の降り注ぐ音で宮崎さんの声が聞こえなくて、
耳を近づけた。

首に腕が回り、俺の唇に柔らかい感触が。

「んっ…」

「ちょ…」

引っ付いてくる体を引き剥がそうとしたけど、雨だから濡れちゃうかも、なんて思ってしまって。




バサ



ザー
ザー
ザー
ザー
ザー

「和っ!!!」

強く降る雨の中を走り去ってく後ろ姿は和だった。

雨に打たれる傘。

和が置いて行ったもの。

「君とキスしても頭のなかはアイツの事しか考えてないんだ」

和が置いてった傘をつかんで見えなくなった背中を追いかけた。



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