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僕は君を連れてゆく

第53章 ミモザイエロー

この強さの雨じゃすぐに、体の芯まで冷えてしまう。

少し走ったら、公園が見えた。

そこに入ったらトイレの前で体をちぢこませている和がいた。

「和っ!!!」

見上げた顔は雨に濡れてるだけなのか、
泣いてるのか、わからなかった。

「びしょびしょじゃん、ほら、拭いて」

ポッケからハンカチを出して和の顔を拭く。

白い頬はますます白い。

「風邪ひいちゃうよ?あのさ…」

「タクシーで帰ろう」

大通りに出て和がタクシーを拾った。

二人で後部座席に乗り込む。

「すごい降ってきましたね」

「傘、全然役に立たなくて」

「こんだけ降ればね…こっちは大助かりなんだけど」

「そうだね、タクシーは今日は繁盛しちゃうね」

あの状況で、この場面。

どういうつもりだ、と突っかかってくるもんだと思っていた。

それなのに和はタクシーの運転手さんと楽しく、なんらなら仲良く会話してる。

「雅紀、傘持ってなかったの?」

「あっ、うん」

「ほら、みんな持ってないって」

何を考えてるんだろうか、その表情からはちっとも読めなくて。

定時で上がったのもあって、割りとすぐに、俺たちのマンションについた。

「毎度~」

タクシーを降りても和は黙ったままで。

部屋のドアを開けても黙ったままで。

「なぁ、」

やかんに水を入れて火にかけようとした。

「なぁ!」

腕を掴み体を俺に向けさせる。

濡れて雨水が滴る前髪に隠れた顔。

「風呂…」

「え?」

「風呂入っていい?」

クシュンとくしゃみを和がしたから浴室に連れてった。

和が風呂から出て、俺も続けて入って。

出たら、和はソファーに体育座りをしてた。

テレビをつけることもなく、何か飲むわけでもなく。

細い小さい体はさらに細く、小さく見えた。



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