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僕は君を連れてゆく

第53章 ミモザイエロー

Kazunari


自分の引きの強さに嫌気がさす。

走って雅紀の会社まで来たら、雅紀の同僚の櫻井さんに会った。

雅紀は少し前に出た、と聞いて後を追った。

コンビニを過ぎたら雨宿りする男女が目に入ってきて、雅紀と、隣にいるのがこの間、タクシーに一緒に乗っていた女の子だとすぐにわかった。

声をかけようと近づいたら、女の子は雅紀の首に腕を回し、雅紀の唇を塞いだ。

どんどん、強くなる雨は俺の心臓に刺さる小さなトゲのようで。
小さなトゲでも、量が増えれば痛みも出てくる。

動かない足に動かせない視線。

目を閉じたいのに女の子とキスをする彼が綺麗で俺とキスするときもこんななのだろうか、と考えてしまった。

力が抜けた腕から傘が落ちて、雅紀が俺に気がついた。

濡れた唇と俺を呼ぶ声。

切迫感のあるその声に、俺をまだ好きでいてくれてる、と思うと同時に俺たちの関係がその子にバレてしまうんじゃないかという恐怖。

泣きたいのに、泣いたら雅紀に迷惑をかけるかもしれないって思うと泣けない。

俺を追いかけてきてくれた雅紀。

帰ろうと声をかけたら、少し目を見開いた。

俺がタクシーの運転手さんと話していても、その会話に加わることはなくて。

触れそうで触れない指先は雨に濡れたせいでどんどん冷えて動かなかった。

マンションに着いたら急に寒くなって、お風呂に入った。

お風呂のなかで自分の体を見る。

やっぱり、俺は男で。

女の子みたいな柔らかい胸も、まあるいお尻も
俺にはない。

ないものばかり。

俺にあるものってなんだろう。

俺って、なんでこんなことで悩んでんだろう。

そんなこと分かってたはずじゃないか。

俺は男で雅紀も男で。

これから先もずっと変わらない。

変わったものって…なんなんだろう。

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