テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第54章 ただひとつの答え

潤は俺の会社で清掃のバイトをしてる子だった。

いつもはバイトの子なんて顔を知ることすらないんだけど。



「あの…すいません…」

いつもより、帰りが遅くなってしまったからタクシーでもつかまえようとしてたら声をかけられた。

それが潤だった。

「なにか?」

若い男に声をかけられるなんて、という顔をしていたんだろう。

「そんな怖い顔しないでよ」

と、リュックを下ろして中から何かを取り出した。

「これ、ゴミ箱に入ってました」

手にしてたのは万年筆だ。

「あ…」

胸ポケットを探って、あるはずのものがなくて。

「Sho…しょうさん?」

手に乗せられたのは俺の万年筆だ。

「あぁ、それはどうもありがとう…なんで俺の名前…」

デスクにある個人用のゴミ箱に俺の万年筆が入ってたそうで。

「いつもしょうさんすごいなぁって思ってたんだ」

「へぇ…」

大学の入学祝に祖父からもらった万年筆。

普段、使うことはないんだけどお守り、みたいな感覚で常にスーツのジャケットの内ポケットにいれてある。

それを拾ってもらえたのでお礼をしたいと申し出て、最初は断られたが、俺の気がすまないと半ば無理矢理連れてきたんだ。

「机の上、一番荒れてますよね」

「ぶっ!!!」

あまりの言い様に思わず吹き出した。

「そんな?」

「はい、だからいつも最後にしてます。しょうさんの机」

マジか…

「それは、ご迷惑をおかけして…」

「最初はこんなに荒れてる人なんだからどんな人なんだろうって…興味?…でもこんなに格好いい人だなんて思って…」

マジか…

ん?

「で、そこから色々調べてみたら…案外可愛いところもあるんだなぁって…」

可愛い…

どこが?

「いつもカフェラテ飲む…ラテ…でしたっけ?あのコースターのストック…たくさんあったり…」

ん?

「待て、待てっ!なんでストックのこと知ってんの?ってか、名前も…なんで?」

なんだ、なんなんだ?


ストーリーメニュー

TOPTOPへ