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僕は君を連れてゆく

第54章 ただひとつの答え


「バイト?」

俺を見上げるその目はかなり鋭い。

「そのバイトの彼になんの用なんですか?」

眼鏡の位置を直しながら俺に問う。

「あのぅ…なんつーか…」

「個人情報なのでお教えすることは出来ません」

「分かってるんです!だけどっ!どうしてもっ!」

ネームプレートにある松岡の文字。

その女性は急に立ち上がった。

でけぇっ!!!

なんで、この女、こんなにでけぇの?

「櫻井さん?どうしてもっ!とまでおっしゃるには訳があるんですよね?」

「はい!それも深い、深い訳が!」

今度は見下ろされて鼻がくっつきそうなくらい近くまで顔を寄せられる。

「…っふ…こちらへ」

「え?いや!俺は別に」

カツカツとヒールの音を響かせて歩き出した。

なぜに、エプロン?

どこに連れてかれるんだ?

早まる胸の鼓動をおさえたくて、鞄を抱きしめながら恐る恐るついていく。

キョロキョロしながら遅れないように。

こんな先まで来たことない。

重そうなガラスドアが目の前にあって、それを松岡という女が開けた。

ホワイトボードに長机が3つ。
それぞれにパイプ椅子がある。

「なんですか?これ」

松岡という女は俺を見て微笑んだ。

カタン、という音が後ろからして振り返った。

「あれ?翔さん♡」

「じ、潤っ!!!」

「まさみさん、電気つけないのぉ?」

「まさみさん?!?!」

松岡という女を見たら、また、微笑んだ。

潤に話を聞くとここで勉強を松岡さんという女に見てもらっているそうで。

バイトを始めてから成績がどんどん下がっていってしまい、まさみさんから学業との両立が出来ないならバイトを辞めなさい、と言われたらしい。

「なんで、そんなここでバイトしたいの?そんな時給いいんだっけ?」

バイトなんて、探せばあちこちに転がってる。

ここに拘る理由があるのだろうか。

「鈍いわね」

それまで、黙っていた松岡という女が口を開いた。



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