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僕は君を連れてゆく

第57章 名前のない僕ら ―身勝手な恋心編―




「あれ?潤は?」

母さんが支度をしながら俺に話しかけてくる。

「さぁ」

コーヒーを飲みながら新聞を読む。

「和也、起こしてきて、」

「やだよ」

「なんで?母さん、もうでなくちゃ。和也、お弁当置いておくからね、今日は遅いから」

バタバタと朝、準備をして仕事に出掛けた母さん。

俺と弟の弁当が並んでキッチンに置いてある。

テーブルにリンゴが剥いてあるから、それを一つかじった。

「……」

この、口に何かを入れる行為。

気持ち悪い。

のに、

俺の口内を犯してくるアイツの。
唇で扱きあげていくとビクビク震えるアイツの体。

何度も飲み込んだ、独特の味。

嫌で、嫌で嫌で、仕方なかったのに。

今じゃそれなりに受け入れてる俺がいて。

俺の体もソワソワと落ち着かなくなる。


リンゴを2切れ食べて、歯を磨いていたら弟が起きてきた。

目を合わすことなく椅子にどかりと座り頭をポリポリ掻いてる。

「お母さんは?」

「もう出た」

「兄さん、コーヒー俺にも」

「自分でやれよ」

そう言いながらもカップを出してしまう。

「ふたご座、占い最下位だよ」

カップにコーヒーを注ぎテーブルに置く。

「もう、行くの?」

「うん」

「10分待ってよ、一緒にでよ」

「やだよ、」

鞄を肩にかけて出ようとしたら、手首を掴まれる。

「なんだよ?」

「待てって、5分でいいから」




スマホでゲームをしながら背中で感じる、アイツの動き。

嫌なら先に出ればいいのだけど、出たらあとがめんどくさい。

窓の外に見える青い空は今日も暑くなりそうで。

「兄さん、お待たせ」

半袖のシャツから除く白い腕。

第二ボタンまで開けた胸元から角度に寄っては見える赤い痣。




昨日の夜を思い出す。


俺は弟に欲情する。


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