僕は君を連れてゆく
第57章 名前のない僕ら ―身勝手な恋心編―
授業中
昨日も…
弟と…
今朝、着替えるときに鏡に写った自分。
鎖骨の窪み、乳首の隣、脇腹、背中…
あちこちに…つけられた赤い痣。
息苦しいけど、見られるわけにはいかないから
第一ボタンまで全部、ボタンを止めてる。
授業中なら、誰にも見られることはないだろうと
そっと、第一ボタンを外して窓から見える校庭に視線をうつした。
校庭から聞こえてくるのは体育の授業中であろう賑やかな声。
窓から見えるのは青い空とサッカーゴールだけ。
机におでこをつけて目を閉じる。
弟はモテる。
彼女が途切れたことはない。
初めて彼女を連れてきた日。
中2の夏休みに入る前の終業式の日だった。
「お兄さん、はじめまして」と微笑んだ。
可愛い子だ、って思った。
その子とは中3になったら別れてしまって。
「どうして?」、「どうせお前が悪いことしたんだろ」なんてからかった。
そうしたら、弟は、「ヤることヤったらもういいかな」って言った。
愕然とした。
中2だぞ?
男になっちまった…俺、まだなんだけど…
そんなことより、
欲求が満たされたら、まるで、なんともないように別れを告げるなんて。
「人として最低だ」と怒った俺に弟は
「兄さんはセックスに夢見てんだね」と言った。
その時に俺を見下ろした顔。
忘れることが出来ない。
「ニノ、ニノっ?」
肩を叩かれ、現実に引き戻される。
「寝てたわ…ごめ、トイレ」
慌ててトイレに駆け込んだ。
緩く勃ちあがる俺の。
背中からのぼってくる、ソワソワしてくる感覚。
「くっ…っ…」
こんなところで、抜くわけにいかない。
個室にこもって時が過ぎるのを待つ。
やっと、落ち着いてきたと思ったら。
「潤の兄さん、マジで頭いいよな~」
知った名前が。
「似てないよな…顔…」
「濃いのと薄いのな…」
「そこかよ~」
収まりかけてた熱が名前を聞いただけで反応する。
こんな体になっちゃって。
「じゅ…んっ…」