テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第57章 名前のない僕ら ―身勝手な恋心編―

「ニノ~!帰ろう~!」

下校を告げるチャイムが鳴って雅紀は鞄を背負って俺のもとへやってきた。

「だから、声がデカイって」

「ボーリングって思ってたんだけど隣町に新しくオープンしたケーキ屋さんに行かない?」

「なんで?」

「そこのチョコレートケーキがすごく美味しいんだって」

「う~ん…」

あんまり、気がすすまないけど…

雅紀と下駄箱に向かう途中
「俺、トイレ」
雅紀はトイレへ入った。


雅紀を待ちながら帰る同級生に手を振ったり。

スマホを弄っていたら声が。

うちの学校は3階に専門教室、2階に一年と二年の教室、1階に三年の教室、職員室と専門教室がある。

弟が階段を降りてくる。

クラスメイトに囲まれながら。

声を聞きたくなくて、慌てて鞄に手を突っ込んでイヤホンを探す。


「あれ?潤のお兄さんじゃね?」

そう聞こえたら鞄を持っていた手を離してしまい
鞄を落とした。

「あれぇ?ビビってる?」

「お兄さん、顔赤くない?かわいい~」

別に弟のクラスメイトなんだから、普通に手でも振ればいいのに。

「気をつけて帰れよ」って言えばいいだけなのに。

動揺して、心臓がバクバクしてる。

赤くなってると言われた顔は、今は青くなってるんじゃないかと思う。

「ほら、」

差し出されたのはペンケース。

その手は弟の。

しゃんがでくれて、目線があった。

「兄さん、具合悪いの?」

優しい声。

「いや、別に…」

「朝から、調子悪そうだったもんね、一人で帰れる?帰っても母さんもいないし一緒に帰ろう」

「大丈夫」と答える前に遮るように、捲し立てるように早口で弟が言う。

「え?」

俺の鞄を持ち俺の腕をつかんで立たされた。

「ニノ~、ハンカチ持って…」

「相葉センパイ、兄さん、具合悪いみたいなんで連れて帰りますね」

「え!?大丈夫?」

ぐいぐい腕を引っ張られる。


「え~!潤、帰っちゃうの?」

「お兄さん、お大事に」

みんな声はどんどん、小さくなってた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ