僕は君を連れてゆく
第58章 この手をのばして
「うわぁ、今日はなんだろう?」
鍋を覗き込んでくる。
ネクタイをゆるめるしぐさにいつもドキドキする。
二人で料理を囲んで、お風呂に入って寝る。
「カズ?どうしたの?」
「雅紀さん、カッコいい…」
「なになに?そんなこと言って…」
「ずっと…聞きたいことあったの…」
数日はただ家にいたんだけど、雅紀さんに言われた。
働きなさいと。
雅紀さんの紹介で雅紀さんのご両親が営んでる
中華料理屋さんで働かせてもらってる。
雅紀さんの両親って感じ。
優しくておおらかで。
ポカポカの太陽みたい。
働いてもらった給料を雅紀さんは受け取ってくれないんだ。
自分のために使ってくれって。言うんだ。
それじゃぁ、俺がここにいる理由は?
何でもしてくれる。
何でも。
俺って、なんでここにいるの?
「俺、俺さ…」
「カズはさ、なんでここにいるの?」
「えっ…」
「いいんだよ、我慢しなくていいんだよ」
そう言って雅紀さんが両手を広げた。
そこに俺は飛び込んだんだ。
「カズは、泣き虫なんだね」
雅紀さんのシャツが色が変わるくらい泣いて。
「…っ好きになってほし…俺のこと…」
「それは…」
「…これっぽちもない?可能性ない?」
「待て待て、よく、聞いて」
「?」
「もう、好きだよ」
気がついてると思ってた、って。
「ほら、鼻かんで」
「っう…うぅ…」
「ほら、ほら、そんなんじゃぁキス出来ないよ」
雅紀さんの顔を見たら、俺の鼻にティッシュを当ててきたから鼻をかんだ。
そして、俺の唇にチュッと雅紀さんの唇が…
信じられなくて。
でも、嬉しくて。
「…い…」
「うん?」
「もう一回して?」
「何回でも!」