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僕は君を連れてゆく

第59章 巡る季節のなかで

そこから、ろくに家族と話をしなくなって。

あっという間に迎えた高校の卒業式の日。


父さんは諦めたのか、俺の顔すら見なくなった。

俊は毎日のように連絡をよこしてくる。

高校を卒業したら家を出ることに決めて。

大学も行きたくないけど先生のすすめもあって都内の名前も聞いたことのないところを受験して合格した。

でも、入学預り金ってのを振り込まなかったから、
その内定を俺は蹴った。

そんな俺を母さんは哀れんだ顔で見てきた。

家にいると苦しくて。

息が詰まりそうだった。

早く、自由になりたくて。

卒業式の日に荷物をまとめて家を出た。



「どこ行くんだよ和っ」

「どこだっていいだろ」

「ちゃんと話せよ、母さんと父さんと」

荷物をバックに詰める俺に言い寄る俊。

「誰のせいでっ」

拳を振りあげた。

でも、それをおろすことは出来なくて。

「行き先くらい教えてけよ、」

最後に見た俊の顔は泣きそうな顔で。

俺も同じ顔してた。







◇◇
いわゆる、ソッチの人が集まる店で働き始めた俺。

若いのもあって…まぁ、モテたんだけど。

マスターの光一さんの店の2階を貸してくれるって。

光一さんにも変な男に絡まれてるを助けてもらったのがきっかけで。

「最近、あちこちの男に手を出してる少年ってのが君か」と。

ここらへんに来る人たちはソッチの人ばかりだから、新しい顔はすぐに分かるらしい。

そんな新しい顔が毎回、違う男を連れていれば噂になんてすぐなるって。

住むところも働くところもない俺には、泊めてくれる誰かの家が必要で。

それを話したら、大きなため息をついて店に連れてこられた。

光一さんには幼なじみの剛さんがいて。

剛さんは芸術家であちこち旅しながら絵を描いたり、粘土を捏ねたりしてるらしい。

数ヶ月に一度、この店に帰ってくる。

「いらっしゃ…、剛…」


「ただいま…」


見つめあうこと数秒。

微笑みあった。

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