僕は君を連れてゆく
第59章 巡る季節のなかで
「いいなぁ」
「なにが?」
「剛さん、カッコいい」
「そうか?相当、変わりもんだよ」
光一さんの隣で使用済みのグラスを洗いながら
光一さんのノロケ話を聞く。
「前なんて帰ってきたの、いつだ?半年ぶりだぞ!よく真っ直ぐここに帰ってこれるよな」
怒ってる口調だけど、店の電話が鳴るたびにソワソワしてたり。
そんな光一さんを見てると俺までソワソワしちゃって。
かかってき電話が剛さんだってのもすぐ分かる。
電話をきったあと、受話器を握る手が震えてるから。
「無事に帰ってきてよかったですね?」
「本当だよ!全く、連絡くらい寄越せっての」
剛さんが帰ってきたら、俺は夜、店を出るようにしてる。
光一さんも剛さんも居ていいよ、なんて言ってくれるんだけど…
壁越しに聞こえる、光一さんの抑えるような喘ぎ声やベッドの軋む音に俺がムラムラしちゃうから。
この前なんて…
「光一さーん?明日のビールを冷やしちゃいますよ?」
店を閉める時間になったのに、バックヤードに入ったきり戻ってこない光一さんを追いかけてきたんだけど…
「剛…、ちょ…ぁん…」
「ええやん、ずっと会いたかった」
「ダメ…店が」
「光一…こっち向けって」
クチュクチュと水音がして、そぉっとのぞいたら
壁に体を押し付けられた光一さんと壁ドンするみたいに覆い被さる剛さんがいた。
貪るように口づける二人がとても色っぽくて。
光一さんの見たことない潤んだ瞳に甘えた声。
もっと見てたいような…
でも、ダメだって!!!
店のドアの札を「close」にしてあらかたの片付けを速攻で終わらせて飛び出した。
「いいなぁ、キス…」
俺は自分の唇に触れた。
優しくて骨の髄まで蕩けさせてくれるようなキスがしたい。
「どこに行こ…」