僕は君を連れてゆく
第59章 巡る季節のなかで
「誰だ?」
もうダメだ、と諦めたその時。
声がした。
パタパタと足音が近づいてきて。
「誰かいるのか?」
俺は口を押さえつけられていたけど、足をバタバタさせて助けを求めた。
「っんー!んー!」
「おいっ!何してるっ」
「チッ、クソっ」
ドンっと体を突き飛ばして常連のおじさんは走って逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
駆け寄ってきたのは、そう、
「俊…」
「和…和なのか?」
俺の身なりを見た俊は顔を歪ませた。
「なにしてんだよっ!こんなとこで!こんなことされて…」
「連れ込まれたんだよっ」
「会いたかった…」
俊は俺をギュウっと強く抱き締めた。
回された腕の強さと震える体。
熱い体から伝わってくる俊の温度。
「ずっと、探してた…」
泣いてる。
俊が泣いてる。
俺は俊の体を引き離して顔を見ようとしたけど、
プイっとそらされる。
「見んなよ。出ようぜ」
俺の服を整えて立たされた。
「汚れてんな」
膝についたホコリをはらって。
俊の後をついていった。
探してたって言った。
俊がなんでこんなところにいるのか。
外に出たら雨が降っていた。
「傘ないな」
「うん」
俺の携帯が鳴って、画面には雅紀さんの名前。
「はい…」
『あっ!和くん?どこにいるの?迎えに行ったらもう店をとっくに出たって』
「うん…」
店に戻ると伝えて電話をきった。
「恋人?」
「…えっと…」
「顔見てりゃわかるよ」
俊の顔を見たら、泣きそうな怒ってそうな。
でも、優しい顔に見えた。
「俺も会っていい?」
「え?あ…うん…」
なにかをしゃべるわけでもなく。
だんだん強くなる雨に少しは俺の体もキレイに
なりますように、ってお願いしながら歩いた。
店が近づくに連れて怖くなった。
雅紀さんは怒ってるかもしれない。
大事なお客さんを怒らせてしまったわけだし。
「大丈夫だよ」
俊に背中を押された。