僕は君を連れてゆく
第59章 巡る季節のなかで
「早く、入って、さぁ!」
母ちゃんが和くんと連れの男を一緒に店の中へ
招いた。
もう、客のいない店のなかはつけたままのテレビの音がただ流れてるだけで。
「和くん…」
俺が声をかけたら和くんは体をビクっと震わせた。
「どこに行ってたの?」
優しくしてやらなきゃいけないってわかってるのに
俺が思ってるよりずっと低い声が出て。
こんな声が出るんだ…俺…。
「あの…」
「誰?アンタ?」
同じような背格好の男。
「傷だらけの恋人に向かって、そんな怖い顔して…態度がなってないんじゃないの?」
同じような声。
腕を組んで俺を睨み付けるその顔。
どこかで…
「誰、アンタ?だっけ?人に名前を聞く態度もなってねぇな」
パシっ
「痛っえっ!なにすんだよ?」
「このバカ!ごめんなさいね。私はこの子の母親です。和くんの雇い主でもあるの。あなたは?」
「俺は…」
「俊、俺が話す。この人は俺の双子の弟、俊です」
「えぇぇぇっっっ!!!!!」
この男が…
和くんの…
双子の片割れ…
俺は彼を上から下から、横から斜めからよーく
見てやった。
似てる?
似てるか?
うん、似てるかも…
「あんま似とらんな」
だよね、父ちゃん…
似てないよね…
「雅紀さん… 連絡しないでごめんね」
「そーだよ!心配したんだぞ!何してたんだよ!」
「帰ろうとしたら、常連のあの人に会って…」
何か言いにくそうな…何かされたんだな…
これは…
「空き倉庫みたいなところに連れ込まれて…
言い争ってるような声がしたから見に行ったら…
和が…」
そこまで話して片割れは涙を流してた。
「どうした?そんな酷いこと…」
お母ちゃんも父ちゃん和くんと片割れを交互に見て、俺の顔を見た。
「ずっと、探してたんです…和のこと…」
ポツリポツリと話し出したのは和が出て行ってからの二宮家のことだった。