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僕は君を連れてゆく

第59章 巡る季節のなかで

雅紀さんが取り出したのは、エナメルの黒い箱。

それが何の箱かなんて、聞かなくても分かる。

「これからもずっと、和と生きていきたい」

パカッと音が鳴って開いた箱のなかで
光るのは、リング。

煌めくそれは二つ入ってる。

「二つも…」

「え?いや、一つは俺のだよ?」

「分かってるよ」

「貰ってくれますか?」

「俺でいいの?俺、ずっと、逃げてきたんだよ。これからも言いたいことを言えなくて困らせちゃうと思う」

「和也…」

「はい」

「顔を見ればわかるなんて、カッコいいこと言う日がくるなんて思わなかったけど…素直になれないところも好きなんだ、どこが好きとか言えないくらい、もう和也が好きで好きでしょうがないんだよ。可愛くて可愛くてしょうがないんだよ」

普通に恋する弟が羨ましくて。
普通に恋が出来ない俺を遠ざけようとした両親を許せなくて。
普通の恋が出来ないなら欲望を満たしてくれるだけでいいと思って。

でも、あなたに拾ってもらったあの日から。

尽きない欲望を知って。


そして、自分が悲しいときは他の誰かも悲しんでいることを教えてもらった。

辛いのも、苦しいのも俺だけじゃない。

「きっと、俺たちの関係は悩むことの方が多い…でも、二人で悩めばいいじゃん」


あなたとなら、悩むことさえ幸せになる。

あなたのことを悩む、そんな日が幸せと思う日が来るなんて。

「雅紀さん…よろしくお願いします」

「和也…」

「はい」

「愛してるよ」




遠回りした季節も、きっと、今日のためだった。




【End】

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