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僕は君を連れてゆく

第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―

相葉センパイが乗った電車はどんどん遠ざかっていく。

俺もあれに乗るはずだったけど。

ハッキリと宣戦布告された。

あの言葉は裏を返せば、
“お前に兄さんはやらない”と聞こえる。

絶対にそうだ。

やっぱり、相葉センパイも兄さんも…

兄さんは相葉センパイに俺のことをなんて話してるんだ?

それに…大学のこと。

俺はまた改札を出て学校に戻るため走った。

聞かなくちゃ。

きっと、兄さんに聞いてもうまくはぐらかされて
終わりだ。

だから…

「はっ…はっ…きっつっ…」

学校に戻ってきて職員室に直行する。

「中居先生いますか?」

静かな職員室のスクリーンで仕切りを作った奥。
そこにはテレビとソファーがあって。

返事がないからそのまま職員室に入る。

「ね!先生!」

肩をポンと叩く。

「あ?おっ!二宮どした?」

耳にイヤホンをつけてる中居先生がここにいる。

ラジオで野球中継を聞いているらしい。

家でテレビで見ればいいのに。

「先生…あの…」

ここまで来たくせに、俺がこんなこと聞いていいのかな?とか。
弟なのに、知らないのか?とか聞かれるかもしれないとか。

思ってしまって。

片耳だけ外したイヤホンを両耳取ってくれて。
ラジオの電源を切ってくれた。

「走ってきたんだろ?どうした?」

直角にあるソファーに座るように促してくれた。

そこに座る。

中居先生は立ってお茶を入れてくれた。

「この暑いのに…」

出てきたのは熱いお茶。

「暑いときに熱いのを飲むんだ」

ズズズっとすすってお茶を飲む姿はおじいちゃんみたいだ。

「今日はかなり打たれてるからもうやめようと思ってたんだ、ちょうどよかったよ」

と、ラジオをツンツンとつつく。

「落ち着くだろ?熱いの飲むと」

優しく笑ってくれて。

中居先生になら、言えるかも。
そう思った。

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