
僕は君を連れてゆく
第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―
潤の首に見つけた赤い痣。
俺にはつけることのできなかった痣。
他の誰かなら容易く出来ることを兄弟である俺たちには出来ない。
「終わった?」
塾が終わり外に出ると、雅紀がいた。
「どしたの?」
「たまたま通ったから…終わる時間だし待ってた。
飯、食ってこーぜ?」
「…うん」
雅紀の顔を見て、ホッとした。
これで家に帰らなくてすむ。
いつものファミレスに入って、いつものメニューを
頼んだ。
「デザートも食べちゃおうかなぁ」
「そんなに食って平気なのかよ」
デザートは夏限定のかき氷とか、マンゴーを使ったのがある。
「普通のチョコレートのケーキが食べたいなぁ」
「おぉ!じゃぁ、ここで食べたらさコンビニで買おうか?」
「そんな食えねぇよ」
講義中も雅紀とファミレスにいるときも何度も携帯が震えたけど、一度も見なかった。
「あぁ~、お腹いっぱい!」
「食べ過ぎなんだよ」
「だって、ニノが残すからじゃん」
「お前が…雅紀が旨そうに食うから食べれるかな?って思ったんだよ」
「なにそれ!ニノ、かーわいい!」
「あ!やめろ!どこ触って!バカっ!」
雅紀といると楽だ。
こーやって、バカやって。
雅紀になら言いたいこと、言えるのに。
「あー!楽しっ!俺、ニノ大好き!」
「アホか!」
こーやって、雅紀みたいに本音が言えれば…
「ん?どした?」
足が止まった雅紀に問いかける。
「ううん、なんでもない。ねぇ、ウチ来なよ?」
「そーしよーかなぁ」
どうせ、母さんもいないし。
明日は休みだし。
「決まり!決まり!コンビニでおやつ買お!」
「はぁ?まだ食うのかよ」
俺は、雅紀の気持ちなんて全然、わかってなかった。
もちろん、弟の気持ちも。
友人、失格
兄貴、失格 だね。
