僕は君を連れてゆく
第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=
「和也、大丈夫?」
「…うん」
「あなた、昔からそうだけど、しんどいときはしんどいって言ってちょうだい」
母さんは若干、イラついてるように見えた。
「ごめん」
「…昔…和也が熱だしちゃって潤を保育園に連れていこうとしたら、いきたくない!って駄々こねてね、」
母さんは、小さく左右に首を振って思い出すように話し出した。
「兄ちゃんのそばにいるって、泣いて。兄ちゃんを守ってやるんだ、なんて」
クスクス笑う母さんにつられて俺も笑ってたみたいで。
「昔から、潤は和也が大切なのよ」
「…ぅん?…」
言葉の意味が分からなくて首をかしげた。
「潤が元気ないから」
「潤が?」
「あなたもここ最近、変だったけどね」
母さんが俺のおでこに掌をのせた。
思ったよりも冷たい母さんの掌。
「冷たい」
「気持ちいいでしょ?まだ熱いわ、もう少し寝てなさい」
そう言われて目をつむった。
色んなことがありすぎて、頭がついていかない。
受験勉強で頭を一杯にしようとしたけど。
ふとしたときに浮かぶのは潤の顔が。
そして、やっぱり、ウトウト夢の世界へ。
「あれ?お父さん!俺、兄ちゃんよりでっかくなってる!」
「うわ!和也!抜かされてるじゃないか!」
「毎日、和也より大きくなるって牛乳、毎日飲んでたもんね」
潤の頭をよしよしと撫でる母さん。
「和也も牛乳飲まなきゃな」
と、俺の髪の毛をくちゃくちゃにしてくる父さん。
「俺は後半にかけてんだよっ!」
あっという間に追い越されてしまった背丈。
「じゃぁ、期待するか~」
そうやって、潤と二人で夕飯のごはんのおかわりを競ったりしてた。