僕は君を連れてゆく
第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=
「ちょっと、静かにしなさいよ」
学校を休んでると聞いて、慌てて家に帰ってきた。
バタバタとリビングに入ったら母さんに怒られた。
「兄さんは?」
「まだ、熱あるの。静かにしてあげて。今、寝たとこよ」
「結構あるの?熱?」
手を洗ってリビングに戻ると俺にココアを出してくれた。
口につけると甘くてスゥーと優しい気持ちになる。
「我慢しちゃってね、いつも」
「うん…」
「なかなか甘えてこないお兄ちゃんなんだから」
「そうだね…」
「潤にだから、言えないこともあるのよ」
「うん?」
「ここ最近、ずっと、悩んでたのよ和也は。でもね、あなたにだから、言えないのよ。大切だから」
「母さん…、俺、」
「ただいま」
父さんが帰ってきた。
「これ、」
珍しくビニール袋を持ってる。
「和也が好きだったろ」
そう言ってガサガサとビニール袋から出てきたのは兄さんの好きなプリン。
「ちゃんと、潤の分もあるぞ」
「なんだよ、ちゃんと、って」
「昔から同じの買ってやらないとお前は怒ったろ」
「んなことねぇわ」
タンタンと階段を下りてくる足音がして。
ゆっくり開いたドアから兄さんが顔をだした。
「父さん、おかえり」
「和也、寝たんじゃなかったの?」
「うるさいんだもん」
「それは…」
「「潤のせいよ、だろ…」」
「なっ!なんで!俺じゃねぇよ」
咄嗟に交わった兄さんとの視線。
「声、裏返ってんじゃん」
久しぶりに見た兄さんの笑った顔。
「和也、少し食べれるの?プリン食べる?」
スプーンを持つ母さんが俺と兄さんを交互に見た。
「食べる」
俺のとなりに座る兄さん。
「なんか、久しぶりね。みんなでこうやって」
「そうだな」
「潤のせいだろ」
「なにがだよ!」
そう。
これが我が家だ。
俺は、この家族を壊そうとしてたんだ。
滲みでる涙を俺は死ぬ気で堪えた。