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僕は君を連れてゆく

第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=

潤の部屋のベットに座りお風呂からあがってくるのを待った。

変わらない部屋はなんかいい匂いがする。

机に並んでるのは教科書だけじゃなくて、
小説やファッション雑誌なんかもある。

姿見が立て掛けてあって、棚にはお店みたいに綺麗に畳んで洋服が重なってた。

潤のベットにゴロンと横になってみた。

さらに香る潤の匂い。

掛け布団に顔を押し付けて鼻から息を吸い込んでみた。

潤に抱かれてるような。

そんな気がして。

変な気分になりそうだから、体を起こしてもう一度机を見た。

引き出しから少しだけはみ出してる紙切れ。

なんだろ…

いけないと分かってるけど、それをそっと引っ張った。


「懐かしい…」


それは俺が小学一年の時に書いた作文だった。

弟がいること。
その弟が俺のうしろをついてきて少しやだな、って思ってること。
でも、俺より小さい手が俺の手をギュッってしてくるといやだなって思ってるのに握り返してしまうこと。
そうすると弟が嬉しそうに笑うこと。
その顔を見ると俺も嬉しく思うこと。

こんなの、今も持ってるなんて。

今だって。
潤が大切で。
昔と違うのは俺の手より潤の手の方が大きくなったこと。
大きな瞳で真っ直ぐ見つめられたら俺はそらすことが出来ない。
昔から、俺は潤を拒むことなんて出来ないんだ。

何も変わってない。

そういうことでしょ。
雅紀。

なんか、分かった気がする。

階段をのぼる足音がして。

潤が部屋に戻ってくる。

俺は作文を畳んで潤を待った。

俺の部屋に入った潤にこっちにいるよと壁を叩いた。

自分の部屋に入るとベットに座る俺がいて。

悲しそうな、でも、優しい目をしてる潤がいて。

県外の大学を受験することを伝えた。


「それは…俺のせい?」


と、震える声で訪ねてきた。

それは半分正解で、半分外れ。

「俺、兄さんに酷いことをした…ごめんなさい」




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