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僕は君を連れてゆく

第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=

雅紀に言われたからってわけじゃないけど。


「だって、友達あいつしかいないもん」


潤は立ったままで、拳を握っている。


「最近、昔の夢ばかり見る…父さんと母さんと俺たちと…すげぇ仲良し家族みたいな夢…それを壊すんじゃないかって思って…このまま、そばにいたら俺…」


そこまで言って潤を見た。

今にも泣き出しそうなその顔は昔と同じ。


「そんな、泣くなよ…」


「俺は…壊れたっていい…兄さんと一緒にいたい…」


溢れてきた涙を追いかけようとしたら、
耳に飛び込んできた言葉は思いもよらない言葉で。


「…そんなこと…」


「そんなこと出来るわけないってわかってる!
だけど…俺には…」


ぐしゃぐしゃにした顔で俺に突き刺さる潤の言葉。

立ち上がり潤に歩み寄る。

なんて声をかければ…

二歩目を躊躇ったら、潤の体が動いて俺の腕を掴み引き寄せ抱き締められた。


「兄さん…好きだ…」


耳元に熱い息がかかって。

熱くて、ずっと、ずっと、欲しかった言葉。


「兄さんに近づきたかった…好きで好きで、おかしくなりそうだった…」


背中に腕を回した。


「潤…」


顔を見たくて体を離そうとするけど、潤の体は
ちっとも動かない。


「今、見てほしくない…ヤバいことになってる」


「どんな潤でもいい…」


腕が解かれ顔を見つめる。


「泣くなって」


涙で濡れた頬を拭う。

頬に触れたら涙のせいなのか少し冷たくて。

その手を潤に握られた。


「兄さんの手、やらかいんだよね」


「潤だけだよ、そう言うの」


「うん…丸っこい手…」


指先にキスをされて。

熱い眼差しが俺を捉えて離さない。


「俺たちは壊れないよ。俺にだって潤しかいない」


その唇に自分の唇を押し付ける。


重なる唇は震えていた。




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