僕は君を連れてゆく
第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=
「っ…ん…」
兄さんが俺を好きと言った。
そして、キスしてくれた。
クラスの女子が言ってた。
兄さんと図書室でたまたま会ったと。
その時に俺の手の話になって。
兄さんにも手を見せてくれ、とお願いしたんだって。
兄さんは見せてはくれたけど。
手のひらを合わせようとすると、すぐにその手を
引っ込めたらしくて。
恥ずかしそうに、弟を思い出す、って言ったって。
「兄さん…」
潤んだその瞳に俺が写ってる。
そっと、指に口づけて手のひらを合わせた。
「なんで、俺を思い出すの?」
理由を聞きたくて兄さんを探した。
そうしたら、風邪で休んでたんだ。
「「手のシワとシワを合わせて幸せ、な~む~」」
二人で笑った。
昔、テレビCMで流れてたこのフレーズ。
二人で手のひらを合わせてよく歌っていた。
合わせた手のひらから指を絡めて握る。
「兄さん…」
「潤…」
兄さんが首を傾けて目を閉じた。
「じゅーん!!!」
「うわっ!やべ!」
「フフフ、早く行けよ」
「兄さん、元気になったら続き!な!」
「バーカ」
このままじゃ、母さんが2階にあがってきちゃうと、慌てて俺は出た。
てか、兄さんこそ部屋にいなきゃおかしいじゃん!
ガチャと兄さんが俺の部屋から出てきた。
「あら?熱あるのになんでちゃんと寝てないの?」
ちょうど、階段を上がってきた母さんと鉢合わせになった。
「まぁ、ちょっと…」
「さぁ、寝なさい」
「はい」
答えにこまる兄さんの顔。
熱のせい?
かわいくて、かわいくて。
部屋に入る兄さんが俺を見てくれて。
俺はウィンクをしてみせた。
そうしたら、兄さんは目をパチクリさせて部屋に入っていった。
あぁ、キスしたかった…