僕は君を連れてゆく
第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=
電車の中で兄さんと相葉センパイが二人でよく音楽を聞いてるのを見てた。
二人繋ぐ白いイヤホンにいつもイライラしてた。
まさか、そのシチュエーションに自分が…
だけど、耳に流れた音楽はピアノから始まるオーケストラのようなもので。
俺は全く聞かない種類の音楽だ。
相葉センパイと繋ぐこのイヤホンに嫉妬してました、なんてカッコ悪くて言えねぇ。
俺の好きなやつを向こうに行く前にいれてやろう。
こっそり繋ぐ手。
小さい丸っこい兄さんの手。
「今日、バイトは?」
「ないよ、すぐに帰る。兄さんの合格祝いやらなきゃ」
「え?土曜日に母さんも父さんもやってくれるって言ってたし…いいよ」
「それは家族として祝うよ。でも今日は彼氏としてお祝いしたいもん」
「もんって…バカなの?」
「バカでいいし!」
「開き直ってんなよ~、もう!」
「家で待ってて。俺、飯作るから」
「ん」
「何食べたい?」
「ん?ハンバーグ」
「だよね」
やっぱり、そう言うと思った。
兄さんのことならなんでも分かる。
自信がある。
ジッと兄さんを見てるとだんだん耳が赤くなってきた。
「ん?なんだよ…」
「ううん、別に」
こういうところがめちゃくちゃ可愛いんだ。
「暑いね」
「うん」
こめかみからツーっと汗が流れのを目で追って。
ズクンと下腹部に刺さる強い刺激。
目だけの刺激でこんなになるんだ。
兄さん、いいよね?
もう、我慢しなくていいんだよね?
抱き締めて、キスして、いいんだよね?
「見すぎだって」
「ごめん」
兄さんが窓越しに俺を熱い目で見てるなんて気が付かなかった。