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僕は君を連れてゆく

第61章 名前のない僕ら =僕らの幸せ編=

兄さんが合格した。

嬉しい。
すごく、すごく、嬉しい。

だって、毎日勉強してた。
少しは休めば?って思うくらいに。

兄さんが俺の友達にからかわれてる。

前は、その光景を見てられなくて。

焦りとか、不安とか。
そんなのがあってカッコ悪いところみせた。

でも、今は余裕…


「おめでとう!兄さん!」

思わず抱き締めてしまう。

それに続いてみんなが兄さんを取り囲んで胴上げとか言い出して。

困ってる兄さんを見て、こんな顔してる兄さんを見れるなんて…

「…おめでとう」

「お兄さん、おめでとう!!」
と、みんなも拍手してくれた。

照れる兄さんを見て、やっぱり嬉しくて。

本当に合格したんだ…


「本当におめでとう!兄さん…」


「どこの大学なんですかぁ?」


「え?あぁ、〇◇〇◇大学…」


「じゃぁ、一人暮らしですか?いいなぁ~憧れる~」


そう。
合格したんだ。

それはつまりここを離れるってことなんだ。

今まで当たり前だったことがそうじゃなくなる。

「なんでそんな顔してんのさ」


兄さんが眉毛を下げて俺を見上げる。


「先に帰ってるから」


肩をポンポンと叩いて。

教室に戻ってみんなが理想の一人暮らしについて語ってたけど、全然、頭に入ってこなくて。

残りの授業はただただ、外を眺めて終わった。


「じゃぁ、お先っ!」


みんなに捕まるまえに教室を飛び出す。

早く
早く
帰って

兄さんに会いたい。


電車を降りたら兄さんがいた。

「どしたの?」


「……」


「待ってて…くれたの?」


「迎えにきた」


家まで続く道を二人で肩をぶつけながら歩いた。

手を繋ぎたかったけど、我慢した。
すごく、我慢した。



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