僕は君を連れてゆく
第62章 夢の向こう側 MN
エレベーターに乗りこむかずを追いかけて一緒に乗り込む。
でも、かずは黙ったまま。
携帯を取り出して操作を始めた。
「俺、タクシーで相葉さん家行くから」
「まだ、話終わってないけど」
腕を掴んで力任せに引き寄せたら、かずは
「何を話すの?誰にも何も話せないのに、俺たちが話すことなんてあるの?」
「それは、タイミングをみて」
「そのタイミングはじゃぁいつなの?俺は…」
「俺は?」
「ううん、何でもない。今は俺たちのことじゃないよね。走りきらなきゃだもんね…ごめん」
エレベーターから降りるとマスクをして道路まで行ってしまった。
かずの言いたいことは、わかる。
俺たちの関係をいつ、どうやってみんなに打ち明けるのか、タイミングをずっと見てた。
でも、世の中の流れが、忙しさが、それを難しくさせた。
秘密の関係、といえば響きは良くて。
二人だけのアイコンタクトも、夜の逢瀬も。
全てが俺たちを盛り上げてくれてた。
でも。
だんだんとかずが不安に思ってるのが分かった。
そこにきてのグループとしての決断。
ますます、俺たちの関係を打ち明けることが俺は怖くなったんだ。
家に帰るのが嫌になった俺はあちこちに連絡をして
飲んでる友達のところに合流させてもらった。
時間だけはどんどん過ぎていくのに。
仕事の充実感だけでは、もう満足出来ないんだ。
同世代の俳優仲間は家庭を築き、新しいチャレンジをしてるのもいて。
羨ましくない、と言えば嘘になるけど。
俺と彼らでは、立場が全然違うことも分かってる。
「部屋、どうすんの?」
「部屋?」
「リフォームしたいとか言ってたじゃん」
「あぁ…まぁ、そのうちね」
それもかずと二人でこれからもやっていくために提案した話。
乗り気ではなかったけど。
「なんかなぁ…」