
僕は君を連れてゆく
第65章 ハートビート
分かってる。
俺に気を使ってくれてるって。
でも、隣にいたいよ。
言えばいいんだけど…
エスカレーターを上がってく翔さんの後ろ姿を見てた。
ネイビーのダッフルコートがよく似合ってる。
「はぁ…」
追いかけてく勇気はなくて、言われた通りに漫画コーナーに行ってみた。
本屋にはわりとよく来るから楽しみ方はわかってるつもりで。
「新刊でたんだ!」
一冊を手を取りちょっとだけ立ち読みする。
翔さんにもすすめてみようかな。
勇気を出して二階へあがることにする。
エスカレーターに乗って。
きっと、笑って迎えてくれる。
「あっ!」
いたっ!
「しょ」
声をかけようとしたら翔さんが女の人と話してるのを見てしまった。
何かを翔さんがとってあげたみたいで。
嬉しそうに笑い合う二人。
翔さんの顔はこちらから見えないけど。
きっと、優しい顔してる。
だって、翔さんは優しい人だから。
だけど、見たくなかった。
やっぱり、翔さんには俺じゃない誰かが似合う…
上がってきたエスカレーターの反対側に乗り換えて、
また一階に戻った。
「おっ!潤じゃん!」
「旬!なにしてんの?」
高校の時の同級生に会った。
しばらく連絡をとってなかったけれど、会えば昔のように話ができる。
「いくつか面接を受ける予定だよ」
旬は彼女とその友達と来てて。
懐かしい昔話もしたけど、俺たちのもっぱらの話題は
就活のこと。
「厳しいよねぇ」
「髪も真っ黒だよ?」
「似合ってねぇー」
「うるせぇ」
ふと、視線を感じた。
気がして目線を上げたら翔さんがいた。
「じゃぁ、また」
「おう!今度、飲も!」
