僕は君を連れてゆく
第67章 瞬きの合間に
「どうした?」
とりあえず、入りなさいと、母さんが促して
俺は洗面所にタオルを取りに行った。
小さくて、自分の弟のように可愛がっていたお前。
「翔ちゃん、ごめんね」
聞けば、一緒に事務所に入ってたやつが中学を卒業するタイミングでやめるそうで。
そう聞けば、アイツも、ソイツもやめていったな。
母さんがお風呂に入るように言ってきたから俺のパジャマだしてやった。
「翔ちゃんはやめないよね?」
すがるような瞳で俺を見た。
この時は、あの言葉の意味がどんな深いものか分かってなくて。
うん、とかもちろん、みたいに返事したような気がする。
その日から雅紀は俺のあとをついてきた。
慕われるのは悪いことじゃないし、なんなら子分が出来たみたいで嬉しかった。
レッスンが終われば一緒に帰って、休みの日は一緒に遊んで。
いつ出来るか分からないデビューに不安な日々も、先輩に怒られて凹んだ日も雅紀と乗り越えてきた。
そんな時、俺、雅紀、ニノ、智、潤が事務所の社長に呼ばれた。
いよいよだ、と思った。
5人で仕事を多くするようになっていたし、次のデビューは俺たちだ、なんてファンの子達も言ってくれてた。
「なんで、呼ばれたかわかる?」
「…」
社長室に入ったのは始めてじゃないのに、なんだか別の場所にきたみたいに空気が強ばっている。
「ニノ、智、雅紀、君たちは今年の夏デビューだよ」
「「「「「えっ!?!?」」」」」
「翔と潤も二人でデビューだ」
「二人で?」
「五人じゃなくてですか?」
「そうだ」
先輩たちのように五人は六人でデビューするものだと思ってて。
「なんで、この組み合わせなんですか?」
「なんとなくだよ」
社長は笑っていた。
事務所初の二組同時デビューは大きな話題になった。
それまで五人に与えられてきた曲を改めて潤と割って歌い直したり、フリだって潤とシンメなんて組んでなかったから一から覚え直す感じになっちゃったし。
雅紀たちは三人で早々とCMに出た。
俺達はダブル主演でドラマをやった。
気がつけば雅紀と競いあうような形をとらされていた。
多くのランキング、視聴率とかの数字に一喜一憂する毎日だった。