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僕は君を連れてゆく

第67章 瞬きの合間に

気がつけば、デビューから三年がたっていた。

潤はドラマや映画、演技の仕事がバンバン入るようになっていて、俺は音楽番組の司会のレギュラーをもらっていた。

仕事をもらえることはありがたい。
でも、何か、何かが足りない。
それがなんなのか、分からなくて。

「翔くんさ、フリ入ってないよね?」

「これから、入れる」

「明日だよ?初披露なんだから」

「分かってるよ!」

声を荒げ机を叩いた。
「何にイライラしてるかわかんないけどさ、きちんと、やってね」

潤は宥めるように言い楽屋を出た。

「クッソ」

潤の座っていた椅子を蹴る。
分かってるんだ、これは俺が悪い。
時間はどんどん過ぎていく。
台本も覚えなきゃならないし、次のアーティストの資料にも目を通さなきゃならない。

「帰ろ」

椅子を直してマネージャーにマンションまで車で送ってもらう。
後部座席でイヤホンをつけ明日披露する新曲を聞く。

「明日は午後からですから」

「え?雑誌は?」

「あれは明後日に回しました、収録の合間に」

マネージャーの気遣いに感謝してお礼を言いマンションのエントランスに入っていくと、目深にキャップを被り体育座りしてる人がいた。

なるべく目を合わさないように通り過ぎようとしたら
そいつはパッと立ち上がった。

「雅紀?!」

「翔ちゃん…」

「どうした?なんでここ…」

背中に腕を回しマンションにいれる。
少し震える肩と泣いていたのか袖の色が変わっていた。

「翔ちゃん、ごめんね」

玄関に入るなり小さい声で言った。
あがれよ、とスリッパをだしてやった。
キョロキョロと見回しながらあとをついてくる。

「変わんないね、お前」

「え?そうかな?もう、19だよ…」

ソファーに座るように促してコーヒーでもだしてやるかとキッチンに立つ。

「ごめん、雅紀。水しかないや」

雅紀は首を横にふり、笑った。
グラスに水をつぎ雅紀に手渡す。
でも、それを飲まずにジッと見つめてるだけ。

「なんかあったのか?」

「うん…」

あのね、と語り始めた。
智がグループを抜けたい、と言ったそうだ。
話し合ってはいるが雅紀の望む方向にはならないみたいで。

「俺、もうダメだよ…」

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