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僕は君を連れてゆく

第67章 瞬きの合間に

引き留めたい雅紀と、智の気持ちを尊重したいニノ。

「今まで喧嘩なんてしてこなかったからさ…」

雅紀は自分の言いたいことをこらえて相手の気持ちを優先させてしまう。
優しい奴なんだ。
でも仕事をしていく上で、自分の意見を持つこと、それを伝えることも大事だ。

「何にも言えなくてさ…どう思う?って聞いてくれるんだけど…」

「不安…だよな…俺がもし雅紀の立場だったらさものわかりの言い奴のフリしてるかも」

「…?」

「自分の本音は隠していい人ズラっての?みんなの気持ちは分かってます、って」

「そんな…翔ちゃん…」

グッと握られている拳、小さく丸まった背中。
相変わらず細い身体。

「どんな結果になるかは、わからないし、もしかしたらもう決まってるかもしれない。でも、寂しいとか心細いとか言ってもいいんじゃね?もちろん応援したい気持ちだってあるって」

智だってニノだってたくさんの気持ちが揺れ動いているはずだ。
雅紀の本音だって聞きたいに決まってる。
だけど、俺達だけですべてを決められるわけではないから。大人の事情ってのが必ず絡んでくる。

「なんか、あれば俺の胸貸してやるから」

「…」

「…」

「…」

「っおい!なんか言えって」

顔を覗き込んだら寝てた。

「寝てんのかよ…」

赤い鼻の頭、腫れたまぶた。
昔から変わらない細い身体。
そっと抱えあげてソファーに横にさせる。
寝室から毛布を持ってきてかけてやった。

「しょうちゃ…」

俺も寝ようかと立ち上がると洋服の裾を掴まれていた。
強く握られたその手。
さっき膝の上で固く握られていた拳とは違って見えて。

「なんだよ…」

思わずしゃがんで頭を撫でた。
なんだか、笑ったような気がした。


_この時だと思う。
雅紀への気持ちが今までと少し違うものになったのが。


「翔ちゃん、ありがとうね」

目覚めた雅紀は恥ずかしそうにしながら起きてきた。

それを可愛い、と思ったんだ。











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