テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第9章 怪盗♡サトコ


「どうしようか?」

自分から付き合ってと誘ったけど落ち着かない。

当たり前だ。

俺のとなりには女装した智くんがいて。

タクシーに二人で乗っているんだ。

そりゃ、落ち着かないだろう。

智くんはじっとしていて、窓の方を見ている。



こんなことしてどうするんだろう。

智くんが何を考えているかわからない。

普段から何も考えてなさそうに見えるけど
智くんの頭の中はシンプルなんだ。

朝なら眠い。

昼ならお腹すいた。

夜なら早く帰りたい。

だいたい、こんな感じだ。

でも、今日は検討がつかない。

メイクしてるせいなのか、女装しているせいなのか
その両方なのか。

智くんを纏う空気、匂いまでもが違って
全然、落ち着かないんだ。

「うち…くる?」

「え?」

「次の信号を左で。」

俺の返事を聞かずにタクシーの運転手さんに
道案内を始めた。

「行っていいの?」

「…」

「今まで散々、ダメだったのに…ね、智く…」

「サトコ。サトコだよ?」

タクシーの後部座席。

伸ばさなきゃ触れることのない指。

それが、触れて、俺の指に絡んだ。

ビックリして、手を引っ込めようとしたら
すごい力でさらに指を絡めてきた。

「いったいよ…」

「うん…」

こんな、智くん、俺は知らない。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ