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僕は君を連れてゆく

第67章 瞬きの合間に

それから、ほぼ毎晩誘われるままに女の子と夜を過ごした。

同じ子だったり、違う子だったり。

そして、そのときはやってきた。



「どういうこと?」

事務所の会議室に呼ばれた俺と潤。

そこにはうちの事務所の社長のほかに一人の女の子とスーツを着た男性がいた。
机の上には雑誌があった。

潤は俺の顔をジッと見ていて、その表情には怒りが滲み出ていた。

「彼女なの?」

俺は否定すればいいのか、素直に頷けばいいのか迷っていた。

「黙ってないで何か言えよっ」

低い声で拳で机を叩いた。

その雑誌には目の前にいる女性が産婦人科から出てきたところをスクープしたもの。

「私らもまさかで驚いているんです。来月からドラマも始まるんです。CMだって…」

隣にいた男性は言う。

「貴方の子、だそうよ」

下を向きうつむく俺に社長の言葉がふりかかる。

嘘だ…
そんな…
だって…

俺は頭をあげ女性を見た。

女性は泣きそうな困ったような顔をしていた。

「相手は誰なのか問い詰めたら貴方の名前が出てきました。お付き合いしてるのか?と聞けば泣き出してしまうし…この事を貴方が知ってるのか?と聞けば誰にも言うなと言うんです…どういうことですか?櫻井さんっ!!!」

「俺は…あの…」

どうしたいいんだ?
俺は…
どうしよう…

「無責任も程がある!話になんねぇっ」

と、潤は会議室から出ていってしまった。

「私…産みたいです…」

あぁ…
神様…
俺はどこで何を間違えたんでしょうか?

雅紀…
俺、どうしたらいい?

「一人で悩ませてごめん。君さえ良ければ俺にも責任分けてもらえないかな」


こんなときでも、俺は…

とまどいや不満、不安をすべてしまってみんなが求める
櫻井翔を演じた。

俺は彼女と結婚することになった。

彼女と結婚を決めた10時間後。

潤の映画が公開されて10日後。

雑誌が店頭に並ぶ14時間前。

俺らの結婚は発表された。

全ては事務所がやってくれた。

俺の意思なんてそこにはなくて。

雅紀に伝えなきゃ、って思ったけど。

そんな時間もとれなくて。

マスコミ各社に送る俺と彼女の連名のFAXを送るだの、
CM契約する会社、番組などのスタッフに送る手紙とか全部が謝罪だった。

そこに俺はいなかった。



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