僕は君を連れてゆく
第70章 向日葵のやくそく /MS
jun
虫垂炎は手術しなくても治せる病気だ。
ちらす、という言葉があるくらいなんだから。
しかし、エコーを見た感じでは虫垂だけの炎症とは言い難い。
採血の結果も悪い。
翔の、櫻井先生の迷いが治療の遅れになるのではないか?
「どこへ行く?」
「母親に話してくる」
翔は、こちらを見ずに救急室から出ていった。
救命医としてこの病院にきて5年がたった。
5年間毎日、必死に命と向き合ってきた。
救える命が目の前にあるのに何も出来ないなんて。
「オペ室どうなってる?」
ナース「今は渡海先生と白石先生が入ってます」
「すぐに入れるな、CT撮ろう」
櫻井先生が戻ってきた。
「オペ室は空いてる」
「オペはしない」
「は?」
「母親と話しあった結果だ。病棟に連絡してくれる?ベッド空いてるかな?」
「まて、どうして?」
「母子家庭だそうだ。手術に必要なお金を準備出来ないと」
「子供の命だぞ?」
「そうだ」
「意味がわからない、金ならどうにかなるだろ!オペ室行こう。俺が話してくる」
「ダメだ。命がかかってるからこそダメだ」
「何を言ってるんだ?」
「とにかく、点滴で様子見る」
ナースに、運んで、と伝えて救急室を出ていく。
なにを言ってるのか分からなかった。
処置台に拳を叩きつけた。
「くそっ」
怒りをそんなとこにぶつけて、らしくない、という顔でスタッフが俺を見てる。
わかっている。
こんなことでイライラしてたってしょうがない。
わかっている。
公私混同だ。
翔と初めて意見が食い違った。
しかも、仕事で、だ。
「ちょっと、出る」
昼飯を食い損ねたことを思い出して救急室を出た。
頭を冷やさないと。
初めて、家に帰りたくないと思った。
虫垂炎は手術しなくても治せる病気だ。
ちらす、という言葉があるくらいなんだから。
しかし、エコーを見た感じでは虫垂だけの炎症とは言い難い。
採血の結果も悪い。
翔の、櫻井先生の迷いが治療の遅れになるのではないか?
「どこへ行く?」
「母親に話してくる」
翔は、こちらを見ずに救急室から出ていった。
救命医としてこの病院にきて5年がたった。
5年間毎日、必死に命と向き合ってきた。
救える命が目の前にあるのに何も出来ないなんて。
「オペ室どうなってる?」
ナース「今は渡海先生と白石先生が入ってます」
「すぐに入れるな、CT撮ろう」
櫻井先生が戻ってきた。
「オペ室は空いてる」
「オペはしない」
「は?」
「母親と話しあった結果だ。病棟に連絡してくれる?ベッド空いてるかな?」
「まて、どうして?」
「母子家庭だそうだ。手術に必要なお金を準備出来ないと」
「子供の命だぞ?」
「そうだ」
「意味がわからない、金ならどうにかなるだろ!オペ室行こう。俺が話してくる」
「ダメだ。命がかかってるからこそダメだ」
「何を言ってるんだ?」
「とにかく、点滴で様子見る」
ナースに、運んで、と伝えて救急室を出ていく。
なにを言ってるのか分からなかった。
処置台に拳を叩きつけた。
「くそっ」
怒りをそんなとこにぶつけて、らしくない、という顔でスタッフが俺を見てる。
わかっている。
こんなことでイライラしてたってしょうがない。
わかっている。
公私混同だ。
翔と初めて意見が食い違った。
しかも、仕事で、だ。
「ちょっと、出る」
昼飯を食い損ねたことを思い出して救急室を出た。
頭を冷やさないと。
初めて、家に帰りたくないと思った。