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喫茶くろねこ

第5章 下地家

「なぁ~~」
『何の用だ』

可愛らしい鳴き声が受話器から、そして、あまり可愛くない、兄貴そっくりの声が直接脳内に、同時に聞こえてきて少々ビックリする。

「あ、いや、あの~。マスターの声がですね、うちの兄貴とそっくりなのなんでかな~、って」

『なんだつまらん。そんなことか。私はてっきり、春からうちで働くことになったというのに連絡先も何も伝えずにさっさと帰ったことを詫びるのかと思ったぞ』

「うっ…」

そういえばそうだった、いろいろ衝撃的なことが多すぎて、基本的なことを忘れていた。

『まぁ、名前と携帯番号が書かれたポイントカードを忘れて帰ったというミスが、災い転じて福となしたナ』

「なんで猫のくせにそんな諺まで知ってるんすか…」 

『そんなに難しい諺でもないぞ。っていうか先代マスターの好きな言葉だったんだ。よく言っていた』

「それで、マスターの声…」

『あぁ、それはな。本当の私の声ではない。というか脳内に直接響くテレパシーに本来、音声というのは無い。ただ、脳のほうで、適当に知っている声の中からイメージにあった声を当て嵌めているだけだ。それがお前さんの場合、たまたま兄貴の声だった、というわけだ』

「じゃぁ、マスターの本当の声って…」

「みゅ~」
『これだ』

「あ、そうでしたね…。無駄に可愛くて、無駄に猫らしい声でしたね」

『ケンカ売っとんのかお前は!』

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