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喫茶くろねこ

第6章 春 ~母と猫と入学式~

僕と会話をしながらも母はすばやく部屋全体をチェックしていた。

「クローゼットがあるなら箪笥とかはいらないわね。お風呂はユニットバス…トイレ側に水が散るからシャワーカーテンも必要かな。窓際に作り付けのカウンター、か。けっこうな広さがあるわね。イスだけ買ってあげるから、勉強はこのカウンターでしなさい。これなら机はいらないでしょ」

部屋をチェックしながら、1人暮らしを始めるにあたって、新しく買うものの算段をしているのだ。いちおう、大学合格のご祝儀代わりということで最初に揃える諸々一式は親が買ってくれることになっている。学費は親が出してくれるし、喫茶くろねこの2階を借りられることになったので家賃と水道光熱費の心配はいらない、が、小遣いは無い。喫茶くろねこのバイト代ってどのぐらいもらえるんだろう?

そんなことを考えているうちに母の算段が終わったらしい。

「佑太、他に何か希望ある?」
「あっ、えっと…電子レンジとか欲しいかな」
「なんで。3食賄いつきなら部屋で料理しないんだからいらないでしょ?」
「でも、ほら、たまにコンビニとかで何か買って食うかもしれないし」
「コンビニで買ったものならコンビニで温めてもらえばいいじゃない。そういうサービスがあるんだから」
「えぇー…」
「ごちゃごちゃ言わない!どうせ使わないわよ。レンジ無しで過ごしてみて、どうしても不便だったら後から買いなさい」

…却下されてしまった。

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