テキストサイズ

喫茶くろねこ

第7章 中井さん

やり取りが気になってそちらばかりを盗み見ていると、突然、目の前にコーヒーカップを置かれて驚いた。

「人の悩み相談を盗み聞きとは…趣味が悪いぞ」

いつから店にいたのか、佐々木さんがコーヒーを淹れて僕のところへ持ってきた。サラリーマン男に聞こえないように小声でたしなめられる。

「…すみません」

謝ってはみたものの、マスターは『占い』をしているはずなのに、それを『悩み相談』だと言うってことは、佐々木さんもある程度占いの内容を知ってるってことで、自分だって盗み聞きしてるんじゃないか、とは思ったが、そんなことを指摘する暇もなく佐々木さんはまたバックへと下がってしまった。

しかたなく出されたコーヒーを啜る。
深みのある豊かな香りに包まれ、些細なことはどうでもよくなってくる。

美味い…。佐々木さんの淹れる珈琲は、僕が淹れる珈琲と同じ豆を使っているとは思えないほどに美味くて、一体何がどうなればこんなに味に違いが出るのか分からない…。

そういえばニコルス…結局ESSには入ったのかな。バイト、今日は何時から出るつもりなんだろう。

なんていうか、『喫茶くろねこ』はとっても変な店なので(ってこんなことをマスターに聞かれるとまた怒られるけど)、営業時間は日によってまちまちだし、定休日がない代わりに突然気分で臨時休業にしたり、アルバイトも出られる日・出られる時間に自由に出勤している。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ