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1P短編集

第14章 散り落ちる花

「別れよう」

 電話越し、彼から静かにそう告げられた。仕事がどうとか君と僕ではやはり合わなかったんだとか屁理屈を延々と垂れ流す彼。

「分かった。言い訳はいいよ」

「言い訳なんかじゃない。俺はお前のことを本気で愛しているんだ。好きだったんだ」

 私は部屋からベランダに出た。まだ冬の寒さが残っている。ベランダからは庭の牡丹(ボタン)の木が見えた。

「それが言い訳だっていうのが何で分かんないのかなあ」

「だから言い訳じゃないよ」

 まだ言うか。この男は。

「ねえ、一つ言うよ。別れたらね、すべてが一瞬にして嘘に変わるの。結婚しようだとかずっと一緒にいようだとか全部ね」

 彼は黙り込んだ。

「ごめん」

 彼が一言、言うと逃げるように電話が切れた。聞こえるのは静かな虫の鳴き声。

「ほんとバカ」

 掛け違えた心のボタン。頬からは涙が零れ落ちる。

 庭の牡丹の花が嘲笑うかのようにぼとりと落ち、散った。



End

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